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長野地方裁判所 昭和53年(行ウ)4号 判決

原告 マルタ工業株式会社

被告 伊那税務署長 ほか一名

代理人 都築弘 奥原満雄 六馬二郎 佐藤信幸 曲渕公一 ほか四名

主文

一  被告国税不服審判所長が昭和五三年三月一七日付でなした、同五一年一〇月一四日付で被告伊那税務署長によりなされた同四九年九月一日から同五〇年八月三一日までの事業年度分法人税の更正処分に対する原告の審査請求を却下した裁決は、これを取り消す。

二  原告の被告伊那税務署長に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は、原告と被告国税不服審判所長との間においては、原告に生じた費用の二分の一を同被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告と被告伊那税務署長との間においては、全部原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告伊那税務署長(以下、被告税務署長という。)が昭和五一年一〇月一四日付でなした原告の同四八年九月一日から同四九年八月三一日までの事業年度分法人税に関する重加算税二一八万八、五〇〇円の賦課決定処分を取り消す。

2  被告国税不服審判所長(以下、被告審判所長という。)が昭和五三年三月一七日付でなした、同五一年一〇月一四日付で被告税務署長によりなされた同四九年九月一日から同五〇年八月三一日までの事業年度分法人税の更正処分に対する原告の審査請求を却下した裁決は、これを取り消す。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  被告税務署長

1  原告の被告税務署長に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

三  被告審判所長

1  原告の被告審判所長に対する請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

(被告税務署長に対する請求について)

一  請求原因

1 原告は、肩書地でセメント製品の製造販売を営む株式会社であるが、昭和四九年一〇月三一日被告税務署長に対し、昭和四八年九月一日から昭和四九年八月三一日までの事業年度(以下、本件係争事業年度という。)分の確定申告(青色申告)をして、所得金額を金六、二七三万六、二九一円と申告したところ、被告税務署長は、昭和五一年一〇月一四日付で右所得金額を金七、八八九万五、二八九円と更正したうえ、更正前の法人税額金二、三九八万九、一〇〇円を金三、一二八万四、四〇〇円とする更正処分をなし、同時に、重加算税として金二一八万八、五〇〇円の賦課決定処分(以下、本件賦課決定処分という。)をなした。

2 原告は昭和五一年一〇月一五日、前項記載の処分の通知を受け、昭和五一年一二月一一日付で、青色申告であるので異議決定を経ずに被告審判所長に対し、前項記載の処分のうち本件賦課決定処分の取消を求める審査請求をなした。

3 前項記載の審査請求に対し、被告審判所長は、昭和五三年三月一七日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をなし、原告は昭和五三年五月二日その裁決書謄本の送達を受けた。

4 しかしながら、被告税務署長の本件賦課決定処分は、次のとおり違法な処分であるから、その全部が取り消されるべきものである。

(一) 理由付記不備の違法

(1) 法人税法第一三〇条第二項は、「税務署長は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には、その更正の理由を付記しなければならない。」旨規定している。

右規定がなされた立法趣旨は、原処分の基礎となつた事実、法的根拠、確認された事実に適用条文を適用することがいかなる理由によつて正しいか、を明示させ、もつて処分の公正を保障させると同時に納税者の権利保護を容易ならしめることにある。

(2) 国税通則法によれば、申告書に対する更正があつた場合には、その更正に基づき納付すべき税額に百分の五の割合を乗じた金額に相当する過少申告加算税を課すると規定し(法第六五条一項)、特にその場合において、納税者が計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、それに基づいて、納税申告書を提出していたときは、過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に百分の三十の割合を乗じた金額に相当する重加算税を課すると規定している(法第六八条一項)。

このことから明白なように、国税通則法は、加算税の一般原則として過少申告加算税を位置づけ、特に、納税者に申告について隠ぺい、仮装という悪意の行為あつた場合に、例外的に重加算税を課することができるという建前をとつているのである。

(3) 従つて、更正処分に加えて、重加算税の賦課決定処分を行おうとする税務署長は、前記(1)の規定の立法趣旨にのつとり、過少申告加算税でなく、ことさらに重加算税を賦課するに至つた理由(納税者の隠ぺい又は仮装の事実及びその行為が納税者の故意に基づいて行われたことを裏付ける事実)を通知書に併せ記載しなければならないというべきである。

(4) 第1項記載の処分の通知書の更正の理由欄には、被告税務署長が原告の所得金額を更正した理由についての記載があるだけで、原告に対し、ことさらに重加算税を賦課するに至つた理由の付記が全くなされていない。

このような処分は、国税通則法の加算税の諸原則、法人税法上の青色申告書を提出した納税者の権利を侵害し処分の公正を脅かすものとして、違法の処分たるを免れないものである。

(二) 重加算税賦課要件の欠如による違法

(1) 前記のように、国税通則法第六八条一項にもとづく重加算税を賦課することのできる法律上の要件は、〈1〉納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装したこと及び〈2〉その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたことである。

(2) 原告は第1項記載の申告をなすについて、計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装したことはない。

(3) 被告税務署長は、原告が訴外東洋造機株式会社(以下訴外会社という。)から購入したヒユーム管製造設備(以下、本件設備という。)の取得時期を故意に繰り上げることによつて、減価償却費を過大に計上したと主張しているが、原告はそのようなことをしたことは全くない。

本件設備の実際の納入時と、訴外会社から原告宛に送付された納品書・請求書の時期とが異なつていたことは事実であり、そのために原告も、第1項記載の更正処分自体は、当初から全く争わなかつたのであるが、右両時期が異なつた理由は、原告が訴外会社にことさらに異なる日付を作ることを依頼したからというものではなく、もつぱら訴外会社の内部的理由によるものである。

原告から訴外会社へ送付されている本件設備の注文書における納入期日も逆に訴外会社から原告へ送付された注文請書の希望納期も、ともに昭和四九年八月二〇日となつている。

実際に本件設備が原告宛に納入されたのは、確かに昭和四九年九月以降であつたが、訴外会社が実際の納入期よりも前に納品書と請求書を作成送付したのは、訴外会社の納期遅れがあつたことと、もともと右売買の代金決済期日が昭和四九年一〇月三一日以降の手形決済による割賦支払の約束があつたことから、訴外会社の営業政策上納品書を実際の納入時期より早い時期に作成送付したという理由によるものである。

(4) さらに原告は、隠ぺい、仮装した事実に基づき、故意に納税申告書を提出したことはない。

原告は、第1項記載の確定申告書の作成について、一切を伊那市大芦町所在の花輪計理事務所の税理士に依頼したのであるが、右依頼をなすについて、昭和四八年九月一日から昭和四九年八月三一日までの会計伝票その他必要な書類一切を右税理士に渡したのである。

そして原告から右依頼をうけた税理士が、確定申告書を作成するにつき、真実の本件設備納入時期を確認することなく、原告より渡された伝票等の記載のみに基づいて作成したため、前記のような減価償却に関する誤りを犯してしまつたのである。

以上のとおり、第1項記載の確定申告書の誤りは、原告と原告から申告書記載を依頼された税理士の軽卒なミスによるものであつて、原告および右税理士が、隠ぺい、仮装の申告書を故意に作成したことは全くないのである。

5 よつて、原告は、被告税務署長に対し、本件賦課決定処分の取消を求める。

二  請求原因に対する被告税務署長の認否

1 請求原因1は認める。

2 同2は認める。

3 同3は認める。

4 同4前文は争う。同(一)(1)は、法人税法一三〇条二項に原告主張の趣旨の規定があることは認め、その余は争う。同(一)(2)は、国税通則法六五条一項、同法六八条一項に原告主張の規定があることは認め、その余は争う。同(一)(3)は争う。同(一)(4)は、被告税務署長が昭和五一年一〇月一四日付で原告に対してなした処分の通知書の更正の理由欄に被告税務署長が原告の所得金額を更正した理由についての記載があることは認め、その余は争う。同(二)(1)は認める。同(二)(2)は否認する。同(二)(3)は、原告会社が本件設備の取得時期を故意に繰り上げることによつて減価償却費を過大に計上した旨被告税務署長が主張したこと、本件設備の実際の納入時と訴外会社から原告宛に送付された納品書・請求書の時期とが異なつていたこと、原告が原告主張の更正処分自体を当初から全く争わなかつたこと、実際に本件設備が原告宛に納入されたのは昭和四九年九月以降であつたことは認め、原告会社が本件設備の取得時期を繰り上げることによつて減価償却費を過大に計上したことが全くないこと、本件設備の実際の納入時と納品書・請求書の時期が異なつたのは原告が訴外会社にことさらに異なる日付を作ることを依頼したからというのではなく、もつぱら訴外会社の内部的理由によるものであることは、否認し、その余は不知。同(二)(4)は、原告が隠ぺい仮装した事実に基づき故意に納税申告書を提出したことはないこと、原告から依頼をうけた税理士が減価償却に関する誤りを犯してしまつたこと、原告主張の確定申告書の誤りが原告と原告から申告書記載を依頼された税理士の軽率なミスによるものであること、原告が隠ぺい、仮装の申告書を故意に作成したことが全くないことは否認し、その余は不知。

三  被告税務署長の主張

1 本件賦課決定処分の根拠

(一) 本件設備の取得の状況について

原告会社は、セメント製品製造を業とする青色申告法人であるところ、本件係争事業年度において本件設備を取得し、これを業務の用に供したとして、租税特別措置法四五条に規定する減価償却(特別償却)を行つたうえ、同事業年度に係る法人税の確定申告書を被告税務署長に提出した。

しかしながら、被告税務署長がその所部職員に調査させたところ、本件係争事業年度においては本件設備は取得されておらず、したがつて、本件係争事業年度においては、本件設備に係る減価償却はできないものであることが確認されたものである。

ちなみに、原告会社における本件設備の取得時期が昭和四九年九月以降であり、本件係争事業年度中に取得していないものであることについては、原告が既に認めているところである。

(二) 仮装隠ぺいの事実の有無について

前記(一)において述べたごとく、原告会社は、本件係争事業年度において本件設備を取得していないにもかかわらず、これを本件係争事業年度に取得したごとく仮装し、かつ、本件設備に係る減価償却費を過大に計上して所得金額をことさら過少に計上した内容虚偽の確定申告書を被告税務署長に提出するなど、偽りの不正行為による過少申告をしたものであるところ、その経緯は次のとおりである。

原告会社では、昭和四九年六月三〇日付けで訴外会社に対し本件設備を発注したが、原告会社は、決算期末である同年八月末までに右設備の納入が得られる見込みが全くなかつたにもかかわらず、これを本件係争事業年度において取得したごとく仮装し、租税特別措置法四五条に規定する特別償却の特例を適用した上、本件設備に係る減価償却費を過大に計上して法人税を不正に免れようと企てて、同月二五、六日ころ、原告会社取締役技術部長那須昭善をして、訴外会社の鈴木五郎営業部長に対し、原告会社の決算期が八月末であるので本件設備の納品書と請求書の日付けを昭和四九年八月三〇日として作成したうえ原告会社あて送付するよう指示させたものである。

右那須部長から電話を受けた右鈴木部長は、右依頼の件につきどのように取り計らつたらよいかを訴外会社の社長平手国秀に禀議したところ、同社長は、原告会社の右指示に従つて右納品書及び請求書の日付けを昭和四九年八月三〇日として作成したうえ、原告会社あて送付したものである。

なお、右納品書及び請求書の日付けを昭和四九年八月三〇日としたことが原告会社の指示のみに基づいて行われたものであり、訴外会社の意思によるものでないことについては、訴外会社における売上げの会計処理は同年九月ないし一二月の間になされており、現実に同年八月三〇日の売上げとして処理されていないことからみても明らかである。

以上述べたごとく、原告会社は、本件設備の買主たる地位を利用し、訴外会社に対し、実際の納入時期とは異なつた昭和四九年八月三〇日付けの納品書・請求書を作成させたうえ、本件設備を本件係争事業年度に取得したごとく仮装し、その仮装したところに基づいて減価償却を行い、本件設備に係る減価償却費を過大に計上して所得金額をことさら過少にした内容虚偽の確定申告書を被告税務署長に提出し、法人税を不正に免がれようとしたものである。

(三) 国税通則法六八条一項適用の適否について

国税通則法六八条一項に規定する「……の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」たとは、不正手段による租税徴収権の侵害行為を意味し、「事実を隠ぺい」するとは、事実を隠匿しあるいは脱漏することを、「事実を仮装」するとは、所得・財産あるいは取引上の名義を装う等事実を歪曲することをいい、いずれも行為の意味を認識しながら故意に行うものであると解されているところ、これを本件についてみると、原告会社は本件係争事業年度に係る確定申告に際し、同事業年度において、本件設備を取得したように仮装し、同事業年度の所得金額をことさらに過少にした内容虚偽の確定申告書を提出し、もつて取引上の事実を故意に歪曲し、偽りの不正行為による過少申告をなしたものであることは前記(二)において述べたとおりであるから、右は、国税通則法六八条一項の国税である法人税の課税標準等の基礎となるべき事実の一部を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき、納税申告書を提出したことに該当するものであり、本件賦課決定処分は適法である。

(四) 重加算税額について

本件係争事業年度に係る原告会社の増差課税標準は、一、六一五万八、九九八円(七、八八九万五、二八九円―六、二七三万六、二九一円)、増差法人税額は、七二九万五、三〇〇円(三、一二八万四、四〇〇円―二、三九八万九、一〇〇円)であり、そのすべてが本件設備の減価償却費の否認によるものであつて、これは既に述べたところから明らかなとおり仮装、隠ぺいに基づくものであるところから、被告税務署長は原告に対し国税通則法六八条一項の規定により、右法人税額七二九万五、三〇〇円に一〇〇分の三〇の割合を乗じて得た金額二一八万八、五〇〇円に相当する重加算税を賦課決定したものである。

2 本件賦課決定処分に対する理由附記の要否

法人税は、申告納税方式により納付すべき税額が確定し、一方加算税は、賦課課税方式により納付すべき税額が確定することとされており(国税通則法一六条)、法人税の更正処分と加算税の賦課決定処分は全く別個な処分である。

法人税法一三〇条二項は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合にはその更正に係る国税通則法二八条二項に規定する更正通知書にその更正の理由を附記しなければならない旨定めているところ、法律上理由附記が要求されているのは更正処分についてのみであつて、加算税の賦課決定処分については法律上理由附記は要しないものとされているから、本件賦課決定処分について理由附記がないとしても、何ら違法性を帯びるものではない。

(被告審判所長に対する請求について)

一  請求原因

1 原告は、昭和五〇年一〇月三一日、被告税務署長に対し、昭和四九年九月一日から昭和五〇年八月三一日までの事業年度(以下、五〇年八月期という。)分の確定申告書(青色申告)を提出したが、被告税務署長は、昭和五一年一〇月一四日付でその前期の申告書に対する更正処分と同時に、五〇年八月期における更正前の所得金額金二、三六〇万三、三九〇円を、金二、三一三万二、三一三円とする減額更正をしたうえ、更正前の法人税額金八〇四万四、一〇〇円を金七八五万六、六〇〇円とする減額更正処分をなした。

2 前項記載の減額更正処分は、前記の原告の確定申告において正しくは翌期においてなすべき減価償却を一期早く行つてしまつたことが被告税務署長によつて更正されたことから必然的に生じたものであつたが、被告税務署長は、右減額更正処分をなすについて、原告が前期において申告していた租税特別措置法第四五条に規定する特別償却(低開発地域等における工業用機械等の特別償却)を行なわず、法人税法にもとづく普通償却しか行なわなかつた。

3 被告税務署長が、右特別償却を認めなかつたのは、確定申告書に明細書の添付がないことを理由とするものであつたが原告は前期の確定申告書において特別償却を求め、この申告書には、法定の明細書がきちんと添付されていたのであり、かつ五〇年八月期の確定申告とその前期の確定申告とに対する各更正処分は、昭和五一年一〇月一四日付で同時に行われたのであるから、本来五〇年八月期の申告書に明細書の添付を求めること自体が無理難題というべきものであつた。

4 さらに第1項記載の減額更正処分において、原告は法人税法施行令第五九条二項の簡便償却法を採用したことによる不利益を受けた。(前期の更正処分がもつと早ければ原告は当然のことながら、自己に有利な正規の月割償却法をとつたはずである)

5 第2項乃至第4項記載のように、原告は第1項記載の減額更正処分を受け、これは確かにそのもの自体としては原告に有利な「減額」更正処分であつたが、その内容は原告にきわめて不利にできており、原告としてはもつと多額の「減額」を求めざるを得ない立場にたたされた。

6 そして右のような場合、租税法の一般通説ならびに確立した判例によれば、原告に実質において「不利」な更正処分であつても、一応「減額更正処分」である以上、原告にとつては右処分の取消しを求める訴えの利益はないものとされ、処分庁である被告税務署長に対する異議の申立て又は、被告審判所長に対する審査請求は訴の利益欠如を理由に棄却又は却下されるべき運命にある救済方法であつた。

7 そしてこのような場合、原告がとり得る方法としては、法人税法第八二条にもとづいて、更正の通知を受けた日の翌日から二月以内に被告税務署長に対する更正の請求があるだけであり、被告税務署長としては、減額更正処分に不服のある原告に対する教示としては、異議申立てや審査請求ではなく、更正の請求をなすべき旨教示すべきであつた。

8 ところが被告税務署長は、第1項記載の減額更正処分の通知書において、原告に対する教示として、「この処分に不服があるときは、この通知を受けた翌日から起算して二月以内に被告税務署長に対して異議申立てまたは被告審判所長(提出先は関東信越国税不服審判所長首席国税審判官)に対して審査請求することができます。」旨を明文で教示したのである。

右教示が誤まつた教示であつたことはいうまでもない。

9 原告は、昭和五一年一二月一一日、被告税務署長による前項記載の誤まつた教示に従い、被告審判所長に対し、昭和五一年一〇月一四日付で被告税務署長が行なつた五〇年八月期分の法人税の更正処分(減額更正処分)に対し、青色申告であるので異議決定を経ずに「(1)前期に特別償却費計算の届出をしたがそれが否認されたので、その届出の効果は今期に援用されるべく更正の請求を求む。(2)前期の否認は今期の申告期限後に行われたので、否認を知らずに簡便償却法によつた。その否認が申告期限前であるならば、普通月割償却法を援用したのである。」旨を求める審査請求(以下、本件審査請求という。)書を提出した。

10 かような場合、被告審判所長としては、本件審査請求が被告税務署長の誤つた教示にもとづいてなされたものであることが更正通知書自体から明白であつたのであり、かつ原告の求めた本件審査請求がその請求の趣旨記載から明らかなとおり、その実体が「更正の請求」であつたのであるから、国税通則法第一一二条にもとづいて、すみやかに「審査請求書」を「更正の請求書」として取り扱つたうえ、右請求書を被告税務署長宛送付し、かつその旨を原告に通知しなければならなかつたのである。

11 ところが、被告審判所長は、前項記載のなすべき行政措置を執らずに、漫然と原告のなした本件審査請求は、原処分が減額更正処分であつて、原告の権利・利益を侵害するものではないとして、昭和五三年三月一七日付で、原告の本件審査請求を却下する旨の裁決(以下、本件裁決という。)をなし昭和五三年五月二日付で右裁決書謄本を原告に送達した。

12 本件裁決は、第10項で述べたとおり、あきらかに国税通則法第一一二条に違反する違法な裁決であるから、原告は、被告審判所長に対し、その取り消しを求める。

二  請求原因に対する被告審判所長の認否

1 請求原因1は認める。

2 同2は不知。

3 同3は不知。

4 同4は不知。

5 同5は、原告が五〇年八月期分に係る減額更正処分を受けたことは認めるが、その余は不知。

6 同6は、一般論として原告主張のように解されていることは認めるが、このような場合、不服申立てが棄却されることはない。

7 同7は争う。

8 同8は、原告主張に係る減額更正通知書に原告主張の文言が記載されていたことは認めるが、その余は争う。

9 同9は、原告が昭和五一年一二月一一日被告審判所長に対し昭和五一年一〇月一四日付で被告税務署長が行つた五〇年八月期分の法人税の減額更正処分に対し本件審査請求書を提出したことは認めるが、原告主張に係る被告税務署長の記載文言が誤つた教示であることは否認する。原告の本件審査請求が右文言に従つてなされたとの点については不知。

10 同10は、本件審査請求が更正の請求であつたことは否認しその余は争う。

11 同11は、被告審判所長が本件審査請求に対し本件裁決をなし、昭和五三年五月二日付で右裁決書謄本を原告に送達したことは認めるが、被告審判所長が漫然と裁決をしたことは否認する。原告主張の行政措置をなすべきであつたとの主張は争う。

三  被告審判所長の主張

1 本件裁決の適法性について

本件裁決は原処分が減額更正であるから不利益処分に当たらず請求の利益を欠く不適法なものであるとして却下したのであるが、更正が不利益処分に当たるか否かは、当該更正により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきであつて、税額算出過程における個々の項目ごとに金額の増減を対比すべきものではなく、したがつて申告により確定した納付すべき税額を減額する更正は不利益処分ではない(東京地裁昭和四九年一〇月三〇日判決・行裁例集二五巻一〇号一三四〇ページ)のである。

したがつて、被告審判所長が、原処分は原告会社が提出した五〇年八月期の法人税の確定申告書による所得金額及び納付すべき税額を減少させる更正処分であつて、原告会社の権利利益を侵害するものではないから、本件審査請求は請求の利益を欠く不適法なものであるとして却下した処分は正当であり、本件裁決は適法である。

2 審査請求と更正の請求について

原告は、本件審査請求は実質は更正の請求であるから、被告国税不服審判所長はこれを更正の請求書として取り扱うべきであつたと主張するが、以下述べるとおり、原告の右主張は失当である。

(一) 審査請求は不服申立制度の一つであるが、不服申立制度の目的は「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによつて、簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保する」ものであり(行政不服審査法一条)、国税に関する法律に基づく処分に不服のある者は、処分のあつたことを知つた日の翌日から起算して二月以内に限り税務署長らに対する異議申立てをすることができることを原則とし、青色申告に係る更正等の場合には異議申立てをしないで国税不服審判所長に対して審査請求をすることができるとされているのである(国税通則法七五条、七七条)。

(二) これに対し、更正の請求制度は納税者が自らした納税申告によつていつたん確定した課税標準等又は税額等を自己に有利に変更すべきことを税務署長に求めるものであつて納税者が納税申告書を提出した後(更正があつた場合は更正後)納付すべき税額が過大であり又は純損失の金額若しくは還付金に相当する金額が過少であることなどが判明した場合には、法定申告期限から一年以内(後発的理由による場合は理由発生から二月以内)に限り税務署長に対し更正の請求をすることができることとして、その過誤申告等について権利救済を図る制度である(国税通則法二三条)。

(三) 以上のとおり、更正の請求と不服申立てとしての審査請求とは制度自体からして本質的に異なるものであり、その手続要件も各別に規定されているのであつて、これを同一に取り扱うことができないことは当然である。

更に、被告国税不服審判所長に提出された本件審査請求書(<証拠略>)をみると、審査請求書の法定記載事項である国税通則法八七条一項ないし三項の所定事項が明暸に記載されているのに反し、更正の請求書に要求される記載事項である同法二三条三項の所定事項についてはこれを具備していないのであるから、これを更正の請求書とみ得る余地が存するものとは到底いえないことが明らかである。

3 国税通則法一一二条の適用について

原告は本件審査請求は原処分庁の誤つた教示に基づいてされたものであるから、被告審判所長は国税通則法一一二条に基づいてこれを原処分庁に送付しなければならなかつた旨主張するが、右主張は以下のとおり失当である。

国税に関する法律に基づく処分について不服申立てのできる者は単に処分に不服があるというだけではなく、その処分によつて自己の権利又は法律上の利益が害されていることが必要であるところ、減額更正については、その取消しを求める法律上の利益はないと解されており、これが不服申立ての対象となり得る余地は全く存しないから、行政不服審査法五七条一項所定の不服申立てをすることができる処分に当たらないのであつて、本来不服申立てのできる旨の教示は必要とされていないのである。

ところで、国税通則法一一二条は、「不服申立てができる処分」につき、行政機関が不服申立てをすべき行政機関を教示する際に、誤つて不服申立先でない行政機関を教示した場合に適用されるものであるところ、本件の原処分は前記のとおり不服申立てのできる処分に当たらないことは明らかであり、原告が原処分庁の誤つた教示であると主張している減額更正通知書の記載文言は不服申立てができる処分につき不服申立先を誤つて教示したものではないから同条の適用はなく、同条の適用を前提とする原告の主張が失当であることは明らかである。

なお、原告は本件の原処分庁は更正の請求ができる旨の教示をすべきであつた旨主張するが、更正の請求制度は前記のとおり不服申立制度とは本質的に異なり、納税者が自らした納税申告の誤り等を自己に有利に変更すべきことを求めるものであることから、更正の請求をするか否かは専ら納税者自身の意思にかかるものであつて、処分庁の教示によるものでないことは明らかであり、また処分庁はそのような教示をする義務もないのであるから、原告の右主張は失当である。

第三証拠関係 <略>

理由

第一被告税務署長に対する請求について

一  請求原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件賦課決定処分の適否について判断する。

原告が訴外会社から購入した本件設備の実際の納入時と訴外会社から原告宛に送付された納品書・請求書の時期とが異つていたこと。実際に本件設備が原告宛に納入されたのは、昭和四九年九月以降であつたこと。被告税務署長の昭和五一年一〇月一四日付でなした本件係争事業年度における原告の所得金額を七、八八九万五、二八九円、法人税額を三、一二八万四、四〇〇円とする更正処分について、原告が当初から全く争わなかつたこと。以上の各事実は、当事者間に争いがない。

<証拠略>を総合すると、以下のとおり認定できる。

1  原告は、本件設備を、本件係争事業年度中に取得しかつ同事業年度中である昭和四九年八月中に事業の用に供したとして、本件設備につき租税特別措置法四五条所定の減価償却を行つたうえ、同事業年度分の法人税の確定申告書を被告税務署長に提出したこと。

2  昭和五〇年一二月中旬頃、伊那税務署の税務調査担当職員横山実らが本件係争事業年度及び五〇年八月期分に係る法人税について、原告の本社・工場において、税務調査をしたところ、原告会社では工場日報を経理担当用と業務課用の二部を作成し保存していたが、原告代表者が当初示した工場日報は後者であつたこと。経理担当用の工場日報は経理担当者の机の上に保管されていたものを右横山が発見したものであるが、その昭和四九年一〇月三〇日の部分(<証拠略>)には、二次製品生産内訳欄に「全員が本件設備である投入器の基礎穴堀作業をした。」旨及び本日仕入品内訳欄に本件設備であるヒユーム型枠に関する記載があり、同年一一月一五日の部分(<証拠略>)には、記事欄に「一〇月二九日から製管工場の本件設備である自動投入機設置に伴う工事が始められてより一八日目である本日試運転を行つてここに完了するに至つた。」旨の記載があつたが、一方、これに対応する業務課用の右各同日付の工場日報(<証拠略>)の該当欄には、右各記載のなされていた部分が切り抜かれ、その跡を白紙で埋めたうえ複写がなされていて、あたかも当初から右各記載が存在しなかつたかのように細工が施されていたことが判明したが、原告代表者は、本件設備の納入日の誤りを認めなかつたこと。

3  原告は、昭和四九年六月三〇日付で納入期日を同年八月一〇日として本件設備を訴外会社に注文したところ、現実には同月中には訴外会社から原告に対し本件設備の納入がされていなかつたにもかかわらず、原告の取締役技術部長那須昭善は、同月二五日ころ、訴外会社の営業部長鈴木五郎に対し、電話で「原告の決算期が同月末なので、訴外会社の本件設備に関する納品書と請求書の日付を同月三〇日として送付してもらいたい。」旨を依頼したこと。

4  鈴木部長は、右依頼の件について訴外会社社長に相談したところ、同社長が、実際の売上状況には反するけれども、得意先の要望であるし、訴外会社の決算期が六月末で決算の処理には影響のないことから、これに従う意向を示したので、同社長の決裁印を得たうえ、本件設備に関して同月一〇日付の納品書及び同月三〇日付の請求書を同月三〇日までに必着するよう原告宛に速達便で郵送したこと。

5  原告の本件係争事業年度に係る法人税の確定申告書の作成を担当した花輪計理事務所では、本件設備に関する前記昭和四八年八月一〇日付の納品書及び同月三〇日付の請求書に基づいて、本件設備を同月中に取得しかつ事業の用に供したものとして租税特別措置法四五条所定の減価償却を行つたこと。

6  原告代表者は、前記昭和五〇年一二月に行われた税務調査に先き立ち、技術部長那須昭善に対して税務調査の行われることを告げ、帳簿書類に目をとおすように指示を与えたこと。右那須部長は、右指示に基づき、帳簿書類に目をとおしたが、その機会に前記業務課用の工場日報のうち、本件設備の導入時期に関係する記事(<証拠略>)を切り抜いてこれを改ざん(<証拠略>)したこと。

7  原告会社は、昭和四九年当時月売上高が五、〇〇〇万円位の小規模の企業であつて、会社の業務につき、総務・経理を代表取締役の田中社長が、設備・製造を那須部長が、営業を他の常務取締役一名が各責任者として任務を分担していたこと。

8  田中社長と那須部長は、昭和四八年頃から生産の増大を図るため本件設備の導入を計画し、本件設備(総代金三、九〇〇万円)が原告会社としては前例のない程に大規模なものと予定されたので、取締役会にも何度か相談したうえ、昭和四九年六月に本件設備の導入について予め取締役会の承認を得て、同月に田中社長を除く役員全員をアメリカへコンクリート製造設備の視察へ行かせ、田中社長自身も同年七月から九月にかけて国内各地の工場を視察し、本件設備の導入についてかなり周到な準備をしていたこと。

9  本件設備の購入を実施するについては、那須部長が責任者とされていたが、訴外会社との本件設備の購入契約の交渉は、訴外会社から鈴木部長が原告会社に来て主として田中社長との間で話が進められたこと。本件設備を訴外会社に発注するについて、納入期日を昭和四九年八月一〇日としたのは、本件設備を据え付けるための基礎工事に要する日数を見越したうえで本件係争事業年度内である同月末までに本件設備を稼働可能な状態とすることを目的としていたこと。右納入期日は訴外会社もこれを了解していたものであつたこと。本件設備のうちプラント設備一式(代金二、四八〇万円)及びヒユーム管型枠(代金五七八万円)は、同年九月三〇日に実際に訴外会社から原告に納入され、本件設備のうちその他の設備は更にそれ以降の時期に実際の納入がなされたものであつたが、右納入の遅れていたことについては那須部長が再三にわたり訴外会社に督促していたこと。

10  田中社長は、本社のある自宅で執務することもあるが、工場と七、八〇メートルないし一〇〇メートル程度離れた場所にある事務所には毎日通つて来ており、経理課用の工場日報に目を通し認印していることはもちろん、那須部長の依頼により、訴外会社から送付されてきた前記昭和四九年八月一〇日付の納品書及び同月三〇日付の請求書にも目を通しており、本件係争事業年度分の確定申告書作成にあたり、本件設備につき租税特別措置法四五条による特別償却ができることを知りながら、右納品書及び請求書を税理士の方に回し、作成された右申告書の代表者欄に署名捺印していること。

三  以上の各認定事実及び争いのない事実を総合すれば、原告会社は、本件係争事業年度において、本件設備を取得しかつ実際に事業の用に供していなかつたにもかかわらず、訴外会社に依頼して本件設備に関する納品書などに実際の納入日などと異なる日付を記入させるなどして、これを右事業年度内に取得しかつ事業の用に供していたもののように仮装し、右仮装に基づいて本件設備につき減価償却費を計上することにより所得金額をことさら過少にした内容虚偽の法人税に関する確定申告書を被告税務署長に提出し、その後所轄税務署担当官による調査を受けるに当り、右虚偽の事実を隠ぺいするため、原告会社の工場日報を改ざんしてこれを右税務署担当官に提示したこと及び原告会社代表者において、これらの事実を知りながら虚偽の確定申告をしたものであることを、推認することができる。

前記認定事実及び右推認した事実に反する<証拠略>は、前掲各証拠及び前記認定の事実に照らし、たやすく措信できず、ほかに右認定及び推認の各事実を左右するに足りる立証はない。右推認事実に反し、本件確定申告の誤まりが、税理士の軽卒な過誤に起因する旨の原告の主張は、すべて採用できない。以上によると、原告は本件法人税額計算の基礎となるべき事実すなわち、資産の減価償却に関する事実を仮装し、これに基づいて減価償却に関し内容虚偽の確定申告書を提出したものというべきである。

四  被告税務署長による昭和五一年一〇月一四日付の原告に対する本件係争事業年度分に関する更正処分により、更正前の所得金額六、二七三万六、二九一円が七、八八九万五、二八九円に、更正前の法人税額二、三九八万九、一〇〇円が三、一二八万四、四〇〇円と更正されたが、これはそのすべてが本件設備の減価償却費の否認によるものであることは、<証拠略>の記載により明らかである。そして、前記認定のとおり、原告は本件設備の取得及び事業に供した時期に関して法人税額の計算の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づき原告の過少申告がなされたものであるから、原告は、更正によつて増加した法人税額七二九万五、〇〇〇円(一、〇〇〇円未満の端数切捨)に一〇〇分の三〇の割合を乗じて計算した金額、すなわち二一八万八、五〇〇円の重加算税を賦課されることになる。

五  原告は、本件賦課決定処分には理由付記不備の違法があると主張する。そして、<証拠略>によると、右処分通知書には理由の記載されていないことが認められる。

しかしながら、国税通則法三二条三、四項は賦課課税方式による国税の賦課決定をする場合、その賦課決定通知書にその決定をした理由を附記すべきものとは規定していないし、法人税法は重加算税の賦課決定通知書に決定理由の附記を要求していないので、その附記のないことをもつて決定が違法となるものではないと解するのが相当である。したがつて、この点に関する原告の主張は失当である。

六  してみれば、被告税務署長のなした本件賦課決定処分は適法であり、同被告に対し、本件賦課決定処分の取消を求める原告の請求は、理由がないものといわなければならない。

第二被告審判所長に対する請求について

一  原告が昭和五〇年一〇月三一日被告税務署長に対し、五〇年八月期分の確定申告書(青色申告)を提出したこと。被告税務署長が同五一年一〇月一四日付でその前期(以下四九年八月期という。)の申告書に対する更正処分と同時に、五〇年八月期における更正前の所得金額二、三六〇万三、三九〇円を二、三一三万二、三一三円とする減額更正をしたうえ、更正前の法人税額八〇四万四、一〇〇円を七八五万六、六〇〇円とする減額更正処分(以下、本件減額更正処分という。)をしたこと。原告が同五一年一二月一一日被告審判所長に対し、本件減額更正処分に対し、青色申告であるので異議決定を経ずに「〈1〉前期に特別償却費計算の届出をしたがそれが否認されたので、その届出の効果は今期に援用されるべく更正の請求を求む。〈2〉前記の否認を知らずに簡便償却によつた。その否認が申告期限前であるならば、普通月割償却法を援用したのである。」旨を求める本件審査請求書(<証拠略>)を提出したこと。被告審判所長が昭和五三年三月一七日付で本件審査請求に対し、「本件審査請求は、原処分が減額更正処分であつて原告の権利・利益を侵害するものではない。」として、これを却下する旨の本件裁決をなし、昭和五三年五月二日付で右裁決書謄本(<証拠略>)を原告に送達したこと。以上の事実は、当事者間に争いがない。

二  本件減額更正処分の通知書(<証拠略>)には「この処分に不服があるときは、この通知を受けた日の翌日から起算して二月以内に被告税務署長に対して異議申立て、または被告審判所長に対して審査請求をすることができます。」旨の教示がなされていたことは、当事者間に争いがない。<証拠略>によれば、原告は、四九年八月期の法人税の確定申告において、同年度内に本件設備を取得し事業の用に供したとして、低開発地域等における工業用機械等の特別償却(租税特別措置法四五条)を適用して税額を計算していたところ、同年度分に関する被告税務署長による昭和五一年一〇月一四日付の更正処分において、本件設備を取得し事業の用に供した日が昭和四九年九月以降であることを理由に、右特別償却の計算が否認されたにもかかわらず、同日付でなされた本件減額更正処分においても、右特別償却について「特別償却は、その工業用機械等を取得し事業の用に供した日を含む事業年度の確定申告書等にその償却額の計算に関する明細書の添付がない場合には適用されませんので、この二、四八〇万円の機械に対する特別償却の規定は、当期分についても適用がありません。」として適用されなかつたこと等による右処分における税額の減額の程度につき不満をもち、本件減額更正処分に対し被告審判所長に審査請求をして争えば所期の救済を得られるものと考えて、前記被告税務署長の教示に従つて、右二か月の期間内に本件減額更正処分について、本件審査請求をしたが、そのため、被告税務署長に対しては法人税法八二条の規定による更正の請求をしなかつたこと。本件審査請求書(<証拠略>)は、審査請求書用の様式の書面が使用されているために審査請求書の法定記載事項である国税通則法八七条一、二項の所定事項が形式的には記載されているといえる反面、更正の請求書に要求される記載事項である同法二三条三項所定事項中、その請求に係る更正前の課税標準等又は税額等、当該更正後の課税標準等又は税額等に関して必ずしも明暸に記載してあるとはいえないが、その請求の趣旨欄には、前記〈1〉、〈2〉のとおり更正をすべき旨の請求をしていることが明暸に記載されていて、同法八七条三項所定の原処分の取消し又は変更を求める範囲が明らかにされているとはいえず、その請求の理由欄にも、法人税法八二条の規定による更正をすべき旨及びその更正の請求をする理由、当該請求をするに至つた事情等について明暸かつ詳細な記載がなされていて、原告の真に求めているものが、本件減額更正処分に対する審査請求ではなく、法人税法八二条の規定に基づいて更正をすべき旨の請求であることが、その記載文面の合理的解釈により明らかであるといえること。以上の事実を認めることができる。

ところで、本件減額更正処分は、原告が昭和五〇年一〇月三一日になした五〇年八月期分の納税申告により確定申告された原告の納付すべき法人税額の一部を減少させる更正処分であつて、これは前記申告によつて確定した法人税全部を取り消したうえあらためて残額につき納税額を確定する処分ではなく、本件減額更正処分後において確定している納付すべき法人税額は原告の前記申告によつて確定したもののうち、本件減額更正処分により取り消された分を除く残余の部分であるから、原告が本件減額更正処分より多額の減額を求めるには、被告税務署長に対する法人税法八二条所定の更正の請求により前記申告額の減額を求めるほかはないものというべきである。また、本件減額更正処分は、原告の申告額のうち減額される部分のみを取り消す原告に利益な処分であるから、原告は本件減額更正処分の取消を求める利益を有しないものというべきである。したがつて、前示事実によれば、被告税務署長のなした前記教示は、不服申立てをすることのできない処分について不服申立てをすることができる旨誤つた教示をしたものであり、原告はこの誤つた教示に従つて被告審判所長に対し審査請求をしたために、被告税務署長に対する法人税法八二条所定の更正の請求をしなかつたものと認められるところ、前示のとおり本件審査請求書の記載自体によりそれが法人税法八二条の更正をすべき旨の請求をしているものと容易に解釈できる場合には、右更正の請求も又実質的な不服の申立てとみることができるから、右審査請求書を受理した被告審判所長としては、国税通則法一一二条の規定の趣旨に従つて、右審査請求書をすみやかに更正の請求をすべき行政機関である被告税務署長に送付すべきであり、右審査請求書が被告税務署長に送付されたときは、はじめから被告税務署長に更正の請求がされたものとみなされるべきであつたものと解するのが相当である。けだし、同法一一二条は、国税に関する法律に基づく処分をした行政機関が不服申立てのできる処分についてこれをすべき行政機関を教示する際に誤つた教示をした場合に関する規定であるが、これは、そもそも処分庁の教示が誤つていたために不服申立人に不測の損害を与えることになれば国民の権利利益を救済する機会を与えるために教示制度を設けた法の精神に反することになることから、誤つた教示の責任を行政庁側の責任として処理しようとして設けられた規定であるから、本件におけるような事実関係のもとにおいては、被告税務署長の誤つた教示をした責任が原告の負担においてのみ処理されることとなる事態を避けるために、同条の規定につき合理的に類推解釈を行なうことはもとより許されるものというにとどまらず、むしろ行政庁のとるべき態度であると解せられるからである。そうすると、被告審判所長の本件裁決は、本件審査請求書を国税通則法一一二条の規定の趣旨に従つて被告税務署長に送付すべきであつたにもかかわらず、これをすることなく審査請求としてそのまま本件裁決をした点で違法があるものといわなければならないから、本件裁決は取消しを免がれないものである。

第三結論

よつて、原告の被告税務署長に対する請求は、失当であるからこれを棄却し、原告の被告審判所長に対する請求は、理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 安田実 松本哲泓 三木勇次)

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